ここが魔境
「冠を持つ神の手」の雑談と雑談と雑談とたまに二次創作テキスト。ほぼ王子。

クリスマスとやらには完全に間に合わなかったけど年内には間に合ったぜ!これで年が越せる…。

リクエスト企画・魚さんへ

 レハトが王になって、互いに忙しい日々が続いている。一息つくことすら難しい状況では、会うこともままならない。良くも悪くも噂話によってレハトの名を聞かない日はないのだが。
 レハト。譲位の前の年になって突然現れた、もう一人の寵愛者。そして、第六代リタント国王。正式な申し入れはまだしていないが、私の婚約者でもある。表立って発表してないとはいえ、ほとんどの者には知られてしまっているのだが。そもそもが、年が明けても私が城に残って、これまで関わらないようにしていた政務の手伝いを始めた時点で周囲にはそれが何を示すのかほぼ悟られていただろう。多分の悪意はあるにせよ。
 陰で何を言われているのかは知っている。幾人かの阿呆に至っては面と向かって品のないことを言ってきたし、当てこすりも数限りない。だが、仕方ない。奴らの言う事も、一面では真実なのだから。
 彼女は日増しに王らしくなっていく。これまで私にとって王といえばすなわち母であったが、彼女が母に似ているかといえば決してそのようなことはない。型通りの儀礼における振る舞いや言葉が同じであっても、レハトはレハトであり母とは違うのだと実感させられる。それでも、王であるのだ。もちろん、彼女は年若く、学び足りないことは数多く存在する。急速な成長ぶりに周囲は忘れがちになるが、城に来て一年余にしかならないのだ。だというのに、時々はっとするほど他者を圧倒する。

 会えないのはいつものことながら、ここ数日は廊下の端で姿を見かけることさえなかった。もっとも、王であるレハトは移動中は衛士に囲まれており、分化からまだ間もない彼女は大柄な衛士の影に隠れてしまう。姿を見るというよりはあそこにいるのだと確認するのがせいぜいではあった。それでも、無事だと分かるだけいい。言える立場ではないのだが、レハトには無理をしてほしくはない。だから、しばらく見ないと不安になる。だから、廊下の端どころではなく、行き会った時には驚いたと同時に安堵した自分がいた。そのまま行き過ぎると思いきや私を呼び止めたので、安堵よりも驚きの方が強くなったのだが。
 時間はあるかと問われ、どう答えていいものか迷う。まったくないと言えば嘘になるが、そう暇というものでもない。まだまだ雑用をこなしているばかりの身では仕方がない。ただ、王からの直々の言葉であれば簡単に否定できるものでもない。とはいえ、私と彼女の関係では周囲に職権乱用と受け取られかねないのではないのか。うかつに応じれば彼女の評判を損なってしまうかもしれない。どうすればいいものか。
 私が答えられないでいると、同僚と言っていいような存在の男が私の代わりに勝手に大丈夫だと答えてしまった。心配ない後のことはこちらで上手くやっておきますから、などとほざく。あまつさえ陛下のためですからとまで言う。気遣いというよりも、新王に対するへつらいなのが見え見えだ。だというのにレハトは奴に必要もない笑顔を向けて礼まで言う始末だ。見ていても不安にさせられるとは。
 人の気も知らずにレハトは私に向けてついてくるようにと告げてさっさと歩きだす。言いたいことは山ほどあったが、場所と人の目を考えて何とかこらえる。何の用かと訊ねれば、大事な用だという返事があっただけで、具体的に何があるのかは説明されない。歩いていく方向から見当をつけようとしたが、私室のある塔の方向ではないのが分かるぐらいだ。一体何だというのだと衛士がいるのも忘れて声をかけようとしたところで彼女の足が止まった。衛士が止まり、私も立ち止まる。ここで生まれ育って十八年も過ごしてきたのだから、どこなのかは当然分かる。分からないのはここに来た理由だ。
「なぜ衣裳部屋なのだ?」
 私の呟きにレハトは振り返ると、大事な用だと言っただろうと至極真面目に答えたのだった。
 部屋の中は常と変らず服や装飾品が並んでいる。侍従や衣裳係がうろついているのも常の光景だ。レハトや私が入っていくと一気に視線が向けられる。ほとんどが好奇の視線だ。まあ覚悟はしていたが居心地は悪い。
 衣裳部屋なのだから、ここは衣裳を作ったり用意したりする場所だ。城で生活する以上、訪れなければいけない所だが、私をつれてくる用事とは一体何なのか。そもそも、大事な用ならば予め私に話を通しておいてしかるべきだが、たまたま廊下で行き会ってそのまま連れてきたというのはどういうことなのだろうか。私がいなくてもどうにかなるものではないのか。当然抱くべき疑念をぶつけてみると、レハトが含み笑った。なぜかそれだけは母に似ているような気がした。母も、私に対してこのような笑みを見せたことがあった。何が面白いのか分からない場面で見たそれが、このようなところで再現される。私は面白いどころではないのに。
 彼女の目的は、別の方向から明らかにされた。
「まあ、陛下。ようやくいらしてくれたんですのね!」
 背の高い衣裳係の男が溢れる色彩を両手に抱えて近づいてきた。私は咄嗟にここから出ていきたくなったが、レハトの方は動じずに衣裳係に応じる。
「即位されて初めての舞踏会の衣裳ですからバッチリ気合を入れないといけませんわよね!」
 鼻息荒く衣裳係の男は手にした様々な布地をレハトに見せる。続いてやってきた数人の衣裳係も同じように布地を持っている。
 そういえば今月の末には舞踏会が開かれる。黒の週黒の日にはいつも舞踏会があるものだが、王の代替わりの年に限れば儀式などの関係で半年ほどは開催されない。要は、今度の舞踏会は久し振りであると同時に六代国王の下で開かれる初のものとなるのだ。ある意味で、貴族たちへの新王のお披露目にもなる。確かに、そのような用件であれば疎かにはできないし、衣裳係の力の入り具合も頷ける。レハトが大事な用だと言ったのも間違いではない。どのような格好をするかは大げさではなく王の威信に係ってくるのだ。そこは理解できる。私が納得できない点があるとすれば二つだ。なぜ何人もいる衣裳係の中でよりにもよってこの男が混ざっているのかという点と、どうしてこれに私が呼ばれたのかという点だ。
 妙な口調で話すこの背の高い衣裳係の男には、私も何度か大変な目に遭わせられた。私だけではない。ヴァイルだって被害に遭っているし、ここを利用する貴族は軒並みこの男に絡まれているはずだ。いや、言動はおかしいが仮にも城勤めが許されているだけあって教養はそれなりにあるらしいし、衣裳係としては腕もあるという。ただ時折、いいことを思いついたと称してはおかしなことをしでかす。正直なところ、ごてごてと飾り立てるのが好きなこの男の趣味は、私には合わない。適当に逃げることを覚えてからは何とかやり過ごしていたのだが、よもやこんな形で遭遇することになるとは思いもしなかった。レハトは平気そうなのだが、彼女の趣味には合っているのだろうか。不安だ。……どうしてこうも私のことを不安にさせるのだろうか。
 そして、レハトの衣裳を作るのならば私は必要ないはずだ。それとも私に対しては違う用事でもあるのか。訳が分からないまま、衣裳の話の邪魔をしないよう壁際へ逃れようとした時、レハトが私の名を呼んだ。
 足を止め、彼女の顔を見る。レハトは私に質問をしてきた。
 すなわち、どの布地が彼女により似合うのかと。
 出された布地は様々なものがあったが、とりたてて悪趣味に映るものはない様子だった。私の目にはいささか派手すぎるきらいのもののなくはなかったが、年若い王が初めて出る場ではあまり地味に装うこともないだろう。舐められては困るし、なにより着飾らないことが四代を想起させる可能性だってある。貴族の出ではない王を、軽んじている者もあれば、警戒している者もある。純粋な王の味方など、数えるほどしかいないのだ。レハトは派手好みというほどではないが、無頓着でもない。なぜ私の意見を求めるのかは分からないが、好きに選べばいいのに。
 そう告げた途端、レハトの眉が勢いよく跳ね上がった。ついでに衣裳係の男がため息をついた。まずいことを言ったようだ。どうにかフォローしないといけない。そう思ったが何を言えばいいのか。
「いや、その、だな」
 何がまずかったのかが分からないので、どう言えばいいのかも見当がつかない。だが、そのまま捨て置くこともできない。ひたすら困るしかない。
「お前ならばどれでもいいのではないかという……」
 先程よりもため息が増えた。周囲の衣裳係や侍従を見回すと、何人かが私から目をそらす。背の高い男だけが「まあ!」と叫んでいたが、それはもう考えないようにした。そもそも私としてはどうしてこの男がいるのかという気分なのだが。
「……レハト?」
 呼びかけるとレハトは私の見たくなかった顔をしていた。失望させてしまったらしい。
「悪かった」
 詫びると、分かっていないくせに、という目が返ってきた。そんな目をされると、もうどうしようもない。喉が渇いて、嫌な汗が出る。視線が泳いでしまう。
 ぽん、と肩を叩かれた。気が付くと例の衣裳係が隣に立っていた。一歩退いてしまいかけたところに、そいつが口を開いた。
「殿下……じゃないんでしたっけ。まあいいですよね殿下」
「あ、ああ……」
 微妙に失礼な物言いをされた気がしたが、肩に手を置かれたまま真剣に目を覗きこまれた状況だと抗議なぞ考えられない。下手な事など言えるはずもない。心底逃げ出したいとしても、叶わない。
「いいですか。陛下はどうしてあなたを呼ばれたと思うんですか」
「いや、それは……」
 それが分かっていれば苦労しないのだが。私の当惑を感じ取った衣裳係が声を大きくする。
「何てこと! それじゃダメですよダメ!」
 距離が近いせいでうるさい。しかも唾が飛んだ気がするのだが。顔をしかめたのだが、恐らくこいつはそんなこと気にしてないだろう。
「前から殿下のセンスには何か足りないって思っていたのよ!」
「…………」
「思い切って言っちゃいますけど、思い切りが足りないわ!」
「……そうか」
「おしゃれを楽しむには冒険心が大事よ! そして愛!」
「……ああ」
「あなた陛下を愛してらっしゃるんでしょう! そうでしょう!」
「…………ぐ」
 逃げたい。逃げ出したい。全力でここから逃げ出したい。一体何が悪くてこのような目に遭わないといけないのか。私に失言はあっただろうが、こんな人前で恥ずかしい思いをさせられるいわれはないと思いたい。こいつさえいなければ良かったのではないか。
 とにかくこの男を見たくなくて視線をそらすと、真顔でこちらを見るレハトが視界に入った。私と視線が合うと、困ったように笑う。いくらか面白がっているようではあるが、それだけではないようだ。助けてくれとも言えず、そのまま見ている。見詰め合ってる形になっているのに気付いたのは、誰かが我慢できずにした咳払いによってだった。衣裳部屋がかなり間抜けな光景になっているのは間違いない。そして、その中心にいるのが私だという事実は頭を抱えるしかない。
「さあ!」
 例の衣裳係の男が私の肩をようやく解放した。そして、背中を押す。レハトの方へと向けて。
 押されて一、二歩進み、レハトの前で止まる。
「愛よ! 愛!」
 何やら背後で訳の分からん声がするが、それが何の関係があるというのか。
 大体、あの男は何がしたいのだ。
 何を言えばいいのか考えあぐね、何かを言わねばならないとしたらひとまず自分の思ったことを言ってみようと結論付けた。今の私にはそれしかできないのだから。
「お前に不愉快な思いをさせたのならば謝る。だがな、王の衣裳を選ぶのに私は不必要ではないだろうか」
 レハトが首を振って否定する。そして、自分の衣裳は私に選んでほしいのだと言った。私じゃないと意味がないと。それこそ意味が分からない。それでは、まるで……。
「ああ、愛よね!」
 背後の叫びはもっと意味が分からないが。誰かあの男を止めろ。
「お前ならば何だって似合うだろう」
 告げると、彼女が分かってないと小さく呟く。その割に嬉しそうなのはなぜか。
 まったく王の振る舞いとも思えない。
「悔やむことになっても知らんぞ」
 そう言ったのに、怯むどころか喜んだレハトが飛びついてくる。衣裳係の拍手に周囲の状況を思い出した私は、今度こそ逃げ出したくなった。まったく顔から火が出そうだ。



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リクエスト内容は王子涙目話、もしくは書いてる人さえも悶え苦しむようなおそろしいほどのいちゃいちゃ話でした。前者採用です。というか後者はダイレクトに「苦しめよ!」って言われてる気がするんですがwww以前私が言った「私が死ぬか王子が死ぬか」をもう一度やれと。涙目というか正確には涙目でいちゃいちゃとか言われた気もしますが涙目しか見えてません。多分こういう形じゃないんじゃないかなーとか思いつつ。
しかし衣裳係ってこんなじゃないですよね。きっと別の人です。

何気に初めて書いた愛A後設定でした。ちょっと意表をついてみようと思ったんですが、効果は薄いな!

リクエストありがとうございました。

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